(後付)
今年の金木犀は早かった。10月の声を聞くとともに、芳しい香りで、その季節の訪れを知らせてくれた。
金木犀の香りがすると、俺は妻の誕生日の近いことを思い出す。
毎年、妻を喜ばせようと、驚かせようと・・・かも知れない、いろいろと策を練ってきたものである。
今年はそのような大騒ぎはもうしない。
滑稽だから、である。
もうお互い40が目前となった。親にもなった。結婚生活も15年になろうとしている。知り合ってからは20年近くになる。
いいころ加減、だと思う。
大人らしく(?)寿ぐことにしたのだ。
妻のほしがっていた、90年代ドラマのDVDを記念の贈り物に用意した。
娘の寝たあとに、二人で酒でも少々飲みながら。誕生日おめでとう、と声をかけて。プレゼントを渡して。
静かに妻の生まれた日の夜を過ごそう、と思っていた。
残念ながら企画倒れ。
貧乏商売なるがゆえ。
勤務が終わって帰り着くと、すでに妻は就寝した後。
いつものこと、とお前はため息をついただろうか?
娘を寝かせて、お前も疲れて眠ってしまったのだろう。
いつものことだな、と俺はため息をついた。
お前の寝息と温みを貰って、俺も眠ってしまったのだろう。
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