(後付)
麗らかな美しい春の一日。
花見に出かけた。妻と娘と俺と、義母とで。この句読点の付け方に俺の意識が入っていると思われ。
足羽川の堤はサクラ並木で花のトンネルとなる。
ひとには知られていないが、日本一の長さを誇るサクラの堤なのである。
冷える日もあったゆえ、花は5分咲き、といったところか。
それでも、薄いピンク色の霞掛かりたる堤の美しさ。幻想的な白昼夢の世界である。
青空、サクラ、川面に反射する陽光。誰もが微笑んでそぞろ歩く。
4年も前になるだろうか・・・足羽川の南の堤防が切れて、大水害になった。
街並みは既に元通りだが、河はそうはいかない。
橋こそかけ替わり、何でもないように風景に溶け込んでいるが、河川敷ではまだまだ工事が続いているのだ。
美しい桜並木の片隅にどうしても目に入ってしまう工事の現場。水害の爪あと。
あのときの悔しさ、やるせなさ。
暑い夏に、もくもくと泥と闘っていた人々を思い出させる。
足羽川の河川敷の屋台で、娘に綿菓子を買ってやった。
手と口の周りを砂糖だらけにして、全部食ってしまった。シナモロールの袋は後生大事に母親に渡して、しまっておいてくれと言った。
この花見は義母が連れて行けといったのであったが、楽しかった。
やっと、というべきか、帰る義母を駅まで送っていった。
土産に、銘酒「黒龍」を持たせた。
俺の大のお気に入りの酒である。口当たりがよく白ワインのようで、一升くらいは軽く飲めそうな良い酒である。
「こんな重いもの・・・」と義母は言いかけたが「ありがとうね」とか言い直しておった。
義母も俺に気を使うようになったらしい。お互いに同じようなレベルにあるな、と苦笑。
特急電車に乗りこむ義母を微笑んで見送ることができた。
妻も自分の母親とはいえ、家事のことなど相当ストレスを感じていたようである。
「やっと帰ったわー」と溜息交じりの感慨を述べた。
俺も激しく同意である。秘密を共有し、クスリと笑いあった。
それから、家族3人水入らずの花見をしに、別な花見スポットへ出かけた。
今度は城の桜である。
なぜ城には桜が似合うのだろう。
そして、城の桜はなぜこんなにも妖しいのだろう。
「桜の下には死体が埋まっている」とか、城の桜の下には手打ちにされた腰元の遺骸が埋まっていそうである。
リアリストな俺にそんな想像をさせるところも、城と歴史のロマンなのだろうか。
妻に話したら、「気味の悪いことばかり思いつくんやでー」と眉をひそめられた。
またまた娘に、屋台でブドウ飴を買わされた。ひとつ味見させてもらったら、カリカリして旨かった。
ちなみにこの城は、往年の角川映画ファンにはおなじみの城である。
「戦国自衛隊」。長尾景虎、後の上杉謙信が主を誅して、天守閣からヘリコプターに乗って去るシーン。あれはこの天守閣で撮影されたそうだ。