曇天。
数日ぶりに30度を下回る最高気温であったという。しかし、体感温度は高い。湿度と相まって、不快な一日であった。
憂鬱感にかすかな頭痛。今晩は一人になりたかった。
早めの帰宅で、話し相手を待ち受けていた妻や子供には悪かったが、食事の後は自室で過ごすことにした。小さな子供のある亭主にしては、格別の待遇である。感謝せねばならないだろう。
頭痛は入浴したら、多少よくなった。眉間を暖かい手のひらで押さえていると、ずいぶん不快感が和らぐようであった。
しばらくこんな頭痛はなかった。気候のせいかもしれない。
梅雨時は毎年、多少憂鬱感にとらわれる方であった。恒例の行事ということだ。
入浴後に、香水の匂いをかぐ。
久しく使っていなかったので変質しただろうかと思ったが、俺の鼻には感じられなかった。
これまた久しぶりに肌に香水をつけてみる。爽やかな柑橘の香りに包み込まれ、気分もこころもち良くなった。
「あなたはプールオムのイメージじゃないと思う」と断言した女を思い出した。
俺のことを知り尽くしたような言い草を不愉快に思った、若かった俺を想う。
俺の好きなトップノートに包まれ、考えることはあの頃の、名残の恋である。あの頃はともかく、華やかな柑橘系の香りは似合わない年になった。
毎日忙しく立ち働いて振り返る暇もないけれど。
時間のできた時に、ふと自分を想うことのできるは悦びである。
ストレスが溜まり、ひとと他愛もない話をしたいと思いながら、一人の時間も大切であるとしみじみ知ることである。
あの恋はどこへ行ったのだろう?
俺はまた恋をするだろうか?
いや、もう最後だろうな・・・。
いやいや、恋は形を変えて、いつでもそこにある。
形は変わってもそれはそれ。何も違わない。
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