飯島愛さんの訃報を聞く。驚いた。
漏れ聞こえてくる彼女の前半生の激しさを想うと。
ひとの過去を断じる資格は誰にもない。それを承知で見解を述べてみると、彼女のそれは罪深い過去であった。なにより彼女自身にとって。
晩年の彼女の変化は、過去の罪を知ったゆえか。俺はそんな気がする。
辛かった昔を糧にできるとき、あれだけの修羅場を乗り越えたのだからと、自分を奮い立てせられるときはいい。健康な精神であれば、過去を内包しながら、前を向いて生きていける。
だが或るとき、過去が自分に襲いかかってくるときが訪れる。自分を責め苛む。
ちくちくと、鋭く。長い疼きをもたらす。
錆びたナイフでえぐられたように、その毒が自我を侵食する。
お前は誰にも許されない罪人なのだと、嘲笑する声が聞こえる。
誰にも自分を開いて見せられないと、自分の中にもぐりこむ。
荒涼とした寒い風景が広がるのみ、だ。
孤独な罪人。
捕えられ罰せられたなら、どんなに楽なことだろう?
世間に知られていない犯罪を犯したことを知る辛さ。
隠し、逃げ続けなければいかない者の哀しさ。
誰の手も汚れているのだ。
落ちない血糊で穢れている。
マクベスのように。アラビアの香を擦り込んでも、腐臭は隠せないのに。
そして、誰もが独りなのだ。
飯島愛・・・いかにも作り物の乳房を曝し、嘘くさいセックスをしてみせるAV女優であった。底抜けの明るさが痛々しい若い女であった。
飯島愛・・・物憂げでありながら、すべてを受け入れてくれると思わせる、かすれた声で話す女だった。何もかも見きった年増女のように。
それらは「飯島愛」の作り出した幻想にすぎないのかもしれない。
だが、彼女の寂しさは俺にも少し解る。
願わくば、彼女の魂魄が安らかであるように。
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