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暦とは裏腹に暖かい日々の続くこと。


今日は珍しく早めに帰宅できることになった。
いささかわくわくしながら、できる時間にしたいことをつらつらと思い浮かべてみる。
新しくできた書店を覗いてみようか。
ドーナツでも買って帰ってみようか。
家でゆっくりと食事をし、のんびりしてみようか。
そのようなことが思いついた。
一番魅力を感じたのが、本屋を覗くこと。ぴかぴかの広い店舗のなか、本の森を彷徨ってみる・・・。しばらく自分の読書・・・仕事に無関係な自分のための読書だ、をしていないことが、俺の不満であったのだ。
退勤後の楽しみができた、と思った。

しかし、ちょっと気が変わる。こういうときこそ、妻や娘と親しむいい機会ではないだろうか、と思ったのだ。
友達に軽く相談してみたら、絶対家族と過ごすべきだ、と強く勧められた。
友達の言うとおり、早く帰って娘と風呂に入る、と妻に電話をする。
「やがて帰ります」と妻に伝えると嬉しそうにしていた。残念ながら、風呂の件は俺が言いだす前に妻に取られてしまった。「なら、○○ちゃんをお風呂に入れてね」と。
妻の意図するところは生理的な問題を多分に含んでのことだったが、友達の言うとおり風呂の世話は最重要項目であることは、間違いなさそうである。

平日の7時過ぎに帰れるのは貴重である。俺の精神状態も上々であるし。
娘と風呂で遊んで、ゆっくり飯を食い、くつろぐ。何と、豊かな、人間らしい夕べだろう!
また、このところ下落傾向であった俺の株も持ち直すことであろう。
本音を言えば、妻ともっと親しくしたいところであるが、それは叶わないのが残念なところである。


そのようなことを帰途考えていたら、気づいた。切腹して以来、妻と親しくしておらんことに。
精神状態が乱高下していたのを差し引いても、それはいかんだろうと思う。38歳の男として、絶対にいかん。
日にちを勘定しだしたら、もういけない。
今さらに長い禁欲期間を思い、修道僧のようであった、と我が身を悔やむことである。
俄然やる気になって帰宅。今晩やる気になってもしょうがないのだが。

玄関に迎えてくれた穏やかな妻の表情と、その後に走り出てきた娘の無邪気な笑顔を見て、情欲に流れた自らを恥じると共に、安堵したことである。


身体に鞭をくれる荒行をする修道僧の気持ちが、解るような気がする。
月に吼えたい気持ちのする。
月はどっちだ?

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